老人支配国家 日本の危機 エマニュアル・トッド 文春新書
親日家のフランス人である、トッドの日本論である。トッドは家族形態のあり方から歴史を紐解くことを専門としている。その彼が、大好きな日本に対し、特に出生率の低さに関して警鐘を鳴らしているのが本書である。
コロナ禍が露呈したのは、グローバリズムの不都合な現実である。グローバリズムにより、国内産業が空洞化したフランスでは、マスクや人工呼吸器も作れず、医療が破綻してしまった。たいしてドイツでは、国内産業が生きているのでそのような事態には陥らなかった。それは、そのままフランスとドイツの死亡率の差を生じる結果となった。日本にいる我々は、ドイツ人の生真面目さが新型コロナに対する日本人のあり方と似ているからと思っていたが、経済の側面からも筆者は考察している。結局フランスは、ロックダウンせざるを得ず、富裕層は国外に避難し、貧困者はフランス国内に止まるを得ないというペストの時代を繰り返したというのだ。これもグローバル化による貧富の増大がもたらした負の側面である。
筆者はアメリカについて、トランプの当選を予測したことで知られている。人口学が専門であり、中年白人の死亡率が上昇に転じたことから、トランプ当選を予測した。過去には、乳幼児死亡率の上昇からソ連崩壊も予想している。死亡率が上昇しているということは、生活がうまくいっていない(自殺、ドラック中毒、アルコール)証であり、変革を予測するものなのだ。そのトランプ現象からアメリカの現状の面白い考察をしている。トランプ現象において、エリート層とポピュリズム層が分断されたが、国内では融合できなくても、外に向かって行くときには融合できるというものなのだ。過去の真珠湾攻撃の際のアメリカの狡猾からすると明白である。そのため、仮想敵国を常に必要とし、それは今は中国なのだと。
アメリカを含めたアングロサクソンは、破壊と創造が得意である。それも、家族のあり方から来ているというのだ。日本などとの直系家族と異なり、子供たちは大人になると親元から離れ出ていかなければならない。そのため、新たに0から作らねばならないのだ。対して、日本のような直系家族では、伝統を重んじるために破壊するよりも維持を目的とする。そのため、日本からはイノベーションが生まれにくいというのだ。
日本でのコロナ禍で明らかになったのは、人口に対する死亡率の低さである。それは彼は、老人を守って、若者に制限を強いた、いわゆる老人支配の国家故とのことである。日本は長子相続を中心とした直系家族であり、規律が重んじられる。今回のコロナ禍で、このような直系家族を重んじる国で死亡率が低かったことは偶然ではなく、ウイルスの特性というよりも各国の現実を反映したものであると示唆している。直系家族でありながら、核家族であるために、家族を賄うことが不可能となっている。それがそのまま非婚化に繋がり、少子化に寄与しているとのことである。
では、少子化が問題である日本において、今後どうすれば良いのか?平安時代や江戸時代などおおらかな時代が日本にはあった。無礼講という言葉も残っており、筆者の目から見ると17時からの日本人がもう一つの日本人なのだと。(コロナ禍の今では17時以降は家庭直帰だが。。。)なので、直系家族にこだわるだけでなく、完璧すぎさを求めることなく、移民の受け入れも程々にしつつ(決してドイツのようになってはいけない)、子供を育てやすい環境を整えていくことが政府だけでなく、文化的にも必要なのだろうと締めくくっている。
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